烏
カラスが鳴くと人が死ぬ。そんな言い伝えがあった。カラスが鳴くと,人が死ぬ。それはあながち嘘じゃない。 カァー,カァー 今日もどこかでカラスが鳴いた。今日もどこかで人が死んだ。 カァー,カァーカァー,カァー 今日もカラスは,鳴いている。 ‡ 烏 ‡ 一匹のカラスが駅の上を旋回していた。線路の上に食べ物が落ちていた。ハンバーガーだ。しかしもうすぐ回送の電車が来るらしいので,通り過ぎてからゆっくり食べようと,待っていた。電車が見えて来た。早くも降りる準備をしていると,一人のやせた男が目に入る。―止めるんだ―カラスは叫んだ。カァー。男はカラスを見上げてほほ笑んだ。そして同時に体が傾いて…キィー――ッ電車が700m程先で止まり,ホームにたくさんの人が駆け付けた。カラスはゆっくりと飛び去った。もはやハンバーガーは食べられる状態では無くなっていたからだ。巣に帰る途中,一人の女性を見つけた。カラスは少し悲しそうな顔をして,―さようなら―カァー,と鳴いた。カラスが眠りにつく頃,町にはサイレンの音が響き渡った。 カラスが鳴くと人が死ぬんだって。人間がそんな風に話しているのを聞いた事がある。確かにカラスは人の死が見える。そして自分の場合は,そういう人をみると,思わず声を掛けてしまう。何か言わなくては。そういう風に,考えてしまうのだ。だけど自分だって知りたくて,死が分かるわけじゃない。この能力が消せるものならすぐにでも消してやりたいくらいなのだ。カァー。カラスは静かに鳴いて,巣から飛び立った。今日は久し振りに,故郷に帰ってみよう。みんな元気にしてるだろうか?木々の多く生えた森の上空まで来ると,カラスは声を張り上げた。カァー,カァーしかし,返事がない。…?皆,何処に行ったのだろうか。暫くその付近を旋回し,様子を見る。やはりだれもでてくる気配がない。ドンッカァーッ。突然体に痛みがはしり,思わず叫んだ。バランスを失い,地面に落ちそうになったのを何とか持ち直し,宙に浮く。下には銃を抱えた男が立っていた。きっと面白半分に打ち落とそうとしているのだろう。ドンッ。また音が聞こえたが,どうやら外れたらしい。チィッと舌打ちする音が聞こえた。カラスは慌てて,飛び去った。弾は心臓にこそ当たっていなかったものの,体の中心部を貫通していた。もう痛みはない。疲れもない。カラスは唯々,飛んでいた。―このまま風に乗って,飛び続けたい――そしていつかは地球の端に出て,その先の,生も死も関係ない,新しい世界に行くんだ。そしてそこで人の死を知る事も見る事もなく,一日中飛び続けるんだ―カラスはふらふらと飛び続けた。200m程下の地面には,何かの道標のように赤い液体がポツポツとたれていた。しかしそれは600m程で途切れ,そしてそこには, その,先には…
カァー、カァー
今日もどこかで、烏が鳴いた。
悲しむように、哀れむように
今日もどこかで、烏が鳴いた。