狐の鬼退治
 
ずいぶんと昔、それこそ道も何も無い大きな荒野がありました。
そしてそこには多くの鬼が住んでおりました。
近くには人里が多く存在したからです。
鬼は毎夜毎夜人里へと出かけ、金品に限らず米や野菜、ある時は人までもを盗って行きました。
金目の物や食べ物まではもう仕方が無いと無理やり納得していた人々も、
さすがに自分の友や親類たちが連れ去られると、顔を真っ赤にして怒り、嘆き悲しみました。
しかし、自分達の力ではどうすることも出来ません。
後はもう願うばかりです。
 
 
そんなある夜、鬼に悩まされる村の一つのある家に、変わった身なりをした旅人がやって来ました。
それは狐の面をかぶり、薄い生地で金色の着物をまとった一人の男でした。
着物は月の光に照らされて、まるで狐の毛の様でした。
男は言いました。
「少し休ませてはもらえませんか」
家主は鬼がやって来ては大変だからと、嫌な顔せず男を迎え入れました。
「親切にどうも有り難うございます。ところで風の噂で聞いたのですが、何やら困り事があるのだとか…」
家主が男に鬼の事を話して聞かせると、男は立ち上がり言いました。
「では噂は本当でありましたか。そうであるなら早くしないと、
その鬼どもはいずれ周りの村々の人間たちをすべて食べ尽くす事でしょう」
「けれどワシらにはどうしようも無いのです。
鬼は周辺の村の人々をかき集めても未だ三分の一にも満たないほどたくさんおりますので、
戦っても勝つ見込みがありません」
「わたしにお任せ下さい。わたしもあの鬼どもに子を奪われた者の一人なのです」
「しかし貴方一人では…」
「わたしは風を操る事ができます。その力で見事鬼を抹殺してご覧にいれましょう」
そう言って男は真夜中、村を出て行きました。
 
男がいなくなってから小一時間、ちょうど朝の二時ごろでしょうか、
突然周囲の村々に大きな笛の音が聞こえてきました。
しゃん、しゃん、と変わらぬテンポで鳴る鈴の音に合わせて、笛が鳴り響きます。
それは実に不思議な音色でありました。
それは思わず引き込まれそうな、透き通った音色でありました。
そしてそれは次第に力強く、恐ろしい響きを持ちはじめ、ついには何も聞こえなくなりました。
太陽が昇った頃、旅人を心配した家の主人が恐る恐る鬼たちの巣くう荒野へ行ってみると、
そこはもう見慣れた荒野ではありませんでした。
他の人々もその場に集まり、ただ呆然とその場を眺めます。
一部分だけ真っ直ぐに草がえぐれ、道ができていました。
そしてそこには幾つもの狐の足跡が、残されておりました。
そして置き土産とでも言うのでしょうか、
そこには狐の面がぽつりと一つ、残されておりました。
 
 
 
 
それから暫くして、この道には商人などが居住むようになり、それなりに栄えるようになりました。
しかし今でも夜中の二時になると、風に乗って時折狐たちが現れ、不思議な音色を奏でているという事です…